鍼灸の臨床に携わっていると、「よく寝付けません」「眠りが浅くて困っている」と訴えられることが多くあります。
いわゆる「不眠」ですね。
年々、複雑化している現代社会では、「不眠」は、もはや社会問題といえるのではないでしょうか。
今や照明やテレビ、スマホの普及の影響で、日本人のおよそ4割は、1日に6時間も眠らないと云われています(※)
では、この「不眠」になると、私たちの心身にどのような問題が生じるのでしょうか?
不眠による「心身への影響」とは?(※)
睡眠は、大きく「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に分かれますが、心身に大きく影響するのは「ノンレム睡眠」です(ちなみに「レム睡眠」は、鮮明な夢を見るような浅い睡眠)。
この「ノンレム睡眠」は第1段階から第4段階まであり、その中でも深い眠りに入る第3・第4段階で主に、細胞の回復が行われます。
具体的には、深い眠りの状態の時に、骨や筋肉を維持するために生涯を通じて必要となる「成長ホルモン」が最も多く分泌され、免疫系や体温、血圧も健全な状態を保たれるのです。ですから、睡眠不足は、免疫系・体温・血圧の調整を狂わせてしまうということになります。
さらに特筆すべきは、よい深い睡眠は「認知症」の発症リスクを低下させれくれる、ことです。
そのメカニズムは以下です。
「覚醒時には隙間なく詰まっている脳細胞は、深い睡眠の間に一部の細胞が60%も収縮して細胞の間に隙間ができます。そして、その細胞の隙間に細胞の代謝で生じる老廃物(アミロイドβ)が排出され、細胞の隙間に流れ込んだ髄液により、老廃物が洗い流される」というものです(米ロチェスター大学の研究者マイケン・ネダーガード氏によるマウスを使っての実験結果)。
脳細胞が収縮して、脳の「掃除」が行われるなんて、驚きですね!
また、睡眠不足によって真っ先に調子が悪くなる脳の部位が決断や問題解決をつかさどる「前頭前皮質」であることから、睡眠不足によって「人はイライラし、気分が落ち込み、合理的な判断ができなくなる」ことが分かってきています。
徹夜で試験勉強するなんて、全く無意味なわけですね。
日常的に睡眠時間が6時間未満の人は、「うつ病、精神障害、脳卒中」のリスクが高いそうです。
さらに驚くべきは、睡眠不足は「肥満」とも直接的な関係があるそうです!
といいますのも、睡眠不足だと胃などの器官から空腹ホルモンと呼ばれるグレリンが大量に分泌され、必要以上に食べてしまうからだそうです。
このように、睡眠不足は様々な問題を引き起こしてしまいます。では、どのような原因で不眠が引き起こされるのでしょうか?
不眠の「原因」とは?
不眠の原因としては、まず「現代生活」が密接に関係していると思われます。
睡眠を促す要素の一つに「体内時計」があります。
これにより、人間の体と脳は昼夜の周期にほぼ合わせて活動できるのです。
この体内時計は、自然光しかない時代には狂わされることはなく一定の周期を維持できていましたが、現代生活では、LEDライトに大きく影響を受けてしまっています。
LEDライトに含まれる「青色光(ブルーライト)」が多いほど、また光が明るければ明るいほど、睡眠に導くホルモン「メラトニン」の分泌が抑えられ、体内時計が狂いかねない状況にあるのです。(※)
ですので、夜眠る前にスマホの画面などからブルーライトを多く含む光を見てしまうと、メラトニンの分泌が阻害され、上手く眠りにつくことができなくなったり、眠りが浅くなってしまったりするのです。
また、世の中のIT化が進んで仕事の効率が高まったことにより「多忙を極める労働環境」にある方が増えていることも、不眠の原因かと思われます。
日中は、IT化によるスピードを求められ、常に緊張状態にある方も多いのではないでしょうか。
夜中でもメールが届き、すぐさま返信しなければならないなど、休まる暇もない日々が続く。。。
そんな日々をおくっていると、常に交感神経(自律神経のうちの戦闘モード)が優位になり、夜になっても心身ともに高ぶってしまい上手く眠りにつけない方は多そうです。
さらに、デスクワークなどによる「身体を動かせないことによる疲労の蓄積」で、全身の血流が悪化し、滞った身体に老廃物が蓄積して筋緊張が強くなり、さらに交感神経優位が慢性化していると考えられます。
特に「首や肩周辺の筋緊張の強さ」と不眠の間には強い関連性があることが、臨床経験上分かってきてます。
あと、特に多忙を極めた生活をされていないのに不眠傾向にある方の原因としては、「日中の身体運動が少ないこと」が多いのかと思われます。
運動量が少ないため「身体を休ませる必要性が少ない」ことに加え、心拍数が上がるような運動で「体温を上げる時間帯をもてていない」ことが不眠傾向の原因であることも多いでしょう(よい睡眠のためには、日中に体温が上がる時間帯が必要と云われています)。
以上、不眠の原因をまとめますと
多忙な生活をしている方については。。。
1.青色光(ブルーライト)の視過ぎ
2.交感神経優位の生活パターン(多忙を極める労働環境、身体を動かせないことによる疲労の蓄積)
リタイア世代などゆっくりとした生活をしている方については。。。
1.睡眠により身体を休ませる必要性が少ない
2.日中に体温を上げる時間帯をもてていない
(以上の原因の分析は、あくまで臨床の場での問診などの経験からのものです)
では、不眠は、どうすれば解消することができるのでしょうか?
不眠の「解消法」とは?
まずは、「有酸素運動とストレッチ」
デスクワークなどでお身体が凝り固まっている方は、有酸素運動をすることで血流が改善され筋緊張も緩和していきますし、さらにストレッチも加えることで より筋緊張が緩和され、リラックス(交感神経オフ)できます。
また、リタイア世代でゆっくりしている方も、有酸素運動を積極的にすることで、適度な疲労が眠りを誘うことができるでしょうし、日中の体温が上がる時間をつくることで眠りやすい状態になることができると思われます。
つぎに、「ゆっくりと湯船につかる入浴」
湯船にゆっくり浸かることで交感神経をオフにできますし、体温が上がる時間をつくることもできます。
夜遅くにスマホなどを見てしまったときでも、その後に湯船にゆっくり浸かるとリラックスしてよく眠れることを実感しています。
そのようなセルフケアでは追いつかないくらい疲労が溜まったりリラックスできない方は、ぜひ「鍼灸」を試して頂けたらと思います。
当院で鍼灸の施術をしていると、施術中にお腹が鳴りだす方や眠ってしまう方も多いです。内臓は副交感神経が優位なときに活発に動くので、お腹が鳴るということは、リラックスしている証拠ですね。
私も夜に自分に鍼をするのですが、鍼をしながらいつの間にか寝てしまうことも多々あります(笑)
鍼灸でお身体の筋緊張を緩和し、交感神経をオフにしやすい体調になって頂くことで、不眠の解消をしていけると考えております(不眠でご来院された方の体験談は、こちら)
ぜひ、不眠でお困りの方は、鍼灸をお試しください(^^)
(※)参考文献:ナショナル ジオグラフィック 2018年8月号
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